すばらしい力作 昔、若尾文子と中村鴈治郎主演による増村保造 監督作品の映画「雁の寺」を見たことはあったが、 あの白黒画面のまさに水上勉ワールドが見事だっ た。 しかし、映画には映画のよさがあるように、今日の地人会作品のような「これぞまさに演劇」 といえるものに出会えたことは、本当にうれしい。 こんなに三時間が短く感じられたことはない。 その理由はいろいろあるが、まず、主役の三人が本当にいい味を出して力演していたことにつきる。 次に舞台の交換が暗がりの中で目のあたりにできたこと。黒子の方々のテキパキとして狂いのない動きが見事だった。 また、中央の観音様の向きまでが計算されていて、場面ごとに効果をあげていたことにも感心さ せられた。 照明の効果は、主人公たちや舞台上の大道具、小道具を照らしてさまざまな模様にして効果をあげていたことにつきるだろう。これまた見事! それにしても、登場したあの僧侶たちの頭は、 かつらではなくて本物だったように思った。役者根性というのか、役者魂というのか、この演劇に関わる意気込みをこの頭からも充分伺うことができた。 ラストで、主役の高橋恵子さんがごぜとなって登場したのには少々驚いたけれど、これまた美しくてびっくりしたのは私だけだったろうか。 原作よし!演出よし!出演者よし!舞台効果もろもろよし! いいことづくめの今日のお芝居。帰りには雨もあがって気分よしのいい日でありました。 巻雲 渡辺 宏 |
匂うばかりの美しさ 身の毛もよだつ恐ろしいストーリーではあるが、高橋恵子さんの妖艶さ、慈念役の嵐広也さんの屈折した暗さ、慈海役の金内喜久夫さんの嫌みな生臭坊主ぶりが強烈な印象として残る。 高橋さんが、素足で地面に落ちてしまった足袋をつま先でつかみ取るシーンや、入浴中石けんを取りに風呂から出てくる様は、匂うばかりの美しさである。入浴中の鼻歌もなかなかお上手。そこには、「女優の中の女優」の輝きを感じる。専属のヘアメイクの方が付いてこられていたそうだ。御髪の様子がきれいで、感心して見ていた。 今回は、アナウンスを担当したおかげで、最前席から汗びっしょりの嵐さんの熱演ぶりや、高橋さんの息づかいまでもが目の当たりに見られて幸運だった。(皆さんも是非ともアナウンスを担当してみてください。お得です。) スタッフの方からアナウンスをほめられ、真に受けて嬉しくて搬出もお手伝いした。 「はなれごぜ おりん」でも使われた円板の大きくて重い舞台もみるみる解体され、観劇直後の感動の余韻を話し合いながら搬出していくのも格別な感がある。 ダイアナ1 杉岡 圭子 |
魅せられた舞台 美しい。高橋恵子さんの観音様のような美しさは、単なる容姿の美しさでは表現できない水上文学の深い闇の部分を香り高く演じきっているからだと思いました。 お若い頃、純粋な愛に生きた彼女の内面の素晴らしさを深く理解することができ、その品のよい舞台が輝いて見えました。 それぞれの役者さん、原作を読み返しているようで素晴らしかったです。 舞台装置の設定にも驚かされ、飽きることのない二時間五十分でした。何度もみたいです。 二年前に初演とは、その円熟した演技は…。 とにかく魅せられました。 紅いバラ 杉原篤子 |
舞台装置、照明、音響もちろん演技力、狭い公会堂の舞台が幾場面にも変化しました。舞台に吸い込まれていきました。 匿名希望 |
心に重く残る舞台 皆さんの熱演でぐいぐい舞台に引きつけられ、水上勉ワールドを堪能できました。 慈海さん、慈念さんも好演でしたが、高橋恵子さんの美しく哀しい女性の姿が印象的でした。 心に重く残る芝居でしたが、各場面の高橋さんの着物と帯の調和が素敵で、目を楽しませてもらいました。 ただ、お経をもう少し朗々と読んでほしいと思いました。 オオニシ 片上千恵 |
いい舞台でした 幕が上がったとき、たくさんの人がいる得度式の場面に驚きましたが、裏方に人がいることで納得しました。 人力の回り舞台装置は楽しめました。少し遅れて回転する「ふすま」などおもしろく拝見。 何より、高橋恵子は、華があり、すてきでした。 少し間違えば危うい場面もうまく処理されていると感心しました。 暗い舞台を想像していましたが、適当に明るく丁寧に演じられていて、よい舞台だったと思いました。 えだぼり F |
迫力のある演技 里子と慈念の迫力ある演技に感動した。水上勉の作品にふれることができ、さすがだと思った。 十五分の休憩に次がさらに楽しみです。 人間の心の奥を鋭く描いた物語に感動した。ごぜ姿に雪の舞う様子は美しかった。 匿名希望 |
役柄になりきって この世の悪と欲を体中に臭わせた金内さんの慈海和尚の演技には、役柄と承知していても、ご本人もこんな人ではと思わせて、さすがでした。慈海和尚を悪の世界と人とするならば、その対局が純真の上にも純な世界(しかし少し屈折した)に住む嵐さん演じるところの慈念さんでしょうか。二人の間に立った里子さんは、菩薩さんでしょうか。 高橋さん演じる里子は、色町で育った者の哀しみ、切なさがよく出ていましたね。そして里子 さんの着ておられる着物の上品な粋さを堪能させてもらいました。しかし、美しい人は、何を召してもよくお似合いですよね。最後の場面は、よけいに美しさが際だっていたように思いました。 長時間のお芝居でしたが引き込まれ、長さを感じませんでした。 瀬音 瀬野久美子 |
素晴らしく心に残る舞台 何という話の展開だろう。あっという間の舞台でした。気がつけば終わっていた。素晴らしい、そして哀れな哀しい物語でした。 女の性の悲しさ、男の人に寄りかかって生きていかなければならなかったその時代を、お寺を舞台に繰り広げられた生々しい生き様。 若い慈念の和尚様を見る目線の厳しさ、潔癖さ、寺の僧はこうあるべきであると堅く信じていた慈念の裏切られた苦しさ。 その寺の中での三人の生活、耐えきれなかったんですね。 そして、和尚様の死体が柩の中へ。 完全犯罪、でも、慈念の心の中に恋しい母の姿と殺した和尚様の姿は、一生ついてまわることでしょう。 どこにいても…。 舞台の高橋さんの妖艶な美しさ、可愛いさ、素敵でした。そして、慈念さんの潔癖的なまでの演技、怖いくらいでした。 アネモネ 和 |
《劇評》 待望の再演 キャスト・スタッフと演出の木村光一とが、一体となって新たな「雁の寺」が産み出されていました。 「盆」と呼ばれる廻り舞台の装置などは今治でははじめて見たように思います。廻る舞台のゴトンゴトンと響く音は不気味な想像をかきたてられました。 若狭の貧しい寒村から出てきた少年僧慈念と原作者の水上勉が十三才にして京の禅寺に入った姿とがオーバーラップしたのは、私だけではなかったのではないでしょうか。 高橋恵子の上品で美しい里子、そして住職慈海との関係、聖と俗の対比を強く見せつけられました。 歌舞伎出身の嵐広也は、開演の何時間も前から舞台に立ち、縁の下からの出入りなど慈念になりきって役を深めていました。 久しぶりの文学作品にめぐり合い水上勉ワールドを十分に堪能することができました。 新居田 |
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